診療所と介護事業経営

「ボランティア精神」と「労働生産性」のバランスが大切

あんずパパ
あんずパパ
ボランティア精神も大切ですが、私たちがやっている事は仕事です。

 

労働生産性の教育

私は、診療所、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、通所介護、訪問介護、小規模多機能型居宅介護(以下小多機)、通所リハ・訪問リハ・看護小規模多機能型居宅介護(以下看多機)・サービス付き高齢者向け住宅(以下サ高住)の開設・運営に携わってきました。

また、訪問介護・居宅介護支援事業所・小多機・看多機・サ高住では、社会福祉士・介護支援専門員の資格を有しているので、運営が安定するまで管理者も経験してきました。

看護師や介護従事者の利用者本位の考え方は、仕事への姿勢としては評価できますが、ともすれば「労働生産性」を低下させ、「働けども赤字」という体質と、頑張っても給料が上がらないという閉塞感の温床となります。

2年に1回の診療報酬改定では、薬価を中心に全体ではマイナス傾向。3年に一度の介護報酬改定は、小手先的な改正内容ばかりで明るい兆しはなかなか見えません。

いつまでも経営状態を国の責任にしていても、自らは知恵を出さず何もしなければ、いずれ倒産してしまいます。

経営の安定化を図るための方策に、診療報酬や介護報酬のアップを期待するだけではなく、一般企業で働いている多くの社会人が持つ基本的な意識(知識)を植え付ける方法があります。

それが、「利用者本位の考え方と生産性のバランス感覚を植え付ける研修会」です。

生産性を理解していないことを認識する

全国的には、きちんとした経営を実践している管理者も多く存在します。特に、経営者兼管理者は、当然のこととして「労働生産性」は考えていると思います。考えなければ、倒産してしまうからです。

私は自ら、現場や行政が行う介護従事者向け研修会(介護実践者研修、認知症研修等)、管理者研修等に参加して来て、肌で危機感を感じてきました。

グループワークで、参加者と生産性について話してみると、誰一人として会話が成立しなかったからです。一般企業の研修会では、あり得ない話です。

「労働生産性」と聞けば、コンサルタントの頭には、「付加価値÷職員数」という経営分析の公式がまず浮かぶでしょう。では、この公式をそのまま教えて、果たして介護福祉士や看護師出身の管理者に理解できるでしょうか。残念ながら、かなり難しいと思います。

誤解いただいては困りますが、能力がないわけはなく、教えてもらった経験がないから理解できないだけです。

少しでも分かりやすくするためには、現場でよく目にする具体的数字を使って、現況をイメージしながら解説する必要があります。
その方法の一部を、小多機(地域密着型である小規模多機能型居宅介護事業所の略)の場合で紹介してみたいと思います。

ご存知の方も多いと思いますが、小多機の介護報酬は、要介護度別の月定額性(業界用語で丸め)です。

現場では、介護度1の利用者にも介護度5の利用者にも、職員は一生懸命サービスを提供します。下手に「労働生産性」の話をすると、現場から「こんなに頑張っているのに、所長は何かというとお金のことばかり。」と、反発を食らってしまいます。

あなた(人材)が原価です

確かに現場の職員は、真面目に介護に取り組んでいます。但し、ほとんどのスタッフが「原価のことなどまったく考えずに」、です。

小多機の場合、原価はほぼ人件費です。
一般的に人件費は、製造業等でない限り、損益計算書の販売管理費に固定費として入りますが、私の研修会では、原価(変動費)として扱っています。

人が行う介護行為(原材料)が、介護報酬を生みだすと考えるからです。
もし、固定費に入れるとすれば、管理者と計画作成担当者の人件費となります。

先にも述べましたが、医療や介護サービスを提供している「自分自身が原価」ということを、現場の看護師や介護従事者は、「理解できない」のではなく、「教わった事もない」のです。
言い方を変えれば、行政も経営者も含め、現場従事者に誰も教えてこなかったのです。

先の研修会では、分かりやすく「あなたの人件費が原価ですよ。」と説明しています。
医療・介護専門職の職員のほとんどは、この人件費すら理解できていません。「人件費=月給」と思っている人がほとんどです。

そこには、賞与や社会保険料等の法定福利費、制服やレクレーション等の福利厚生費は含まれていません。現状は、このレベルです。

原価以上に働いていますか?

当小多機・看多機(看護小規模多機能型居宅介護事業所の略)の職員の多くは、介護福祉士です。全員が中途採用者ですが、そのほとんどは、今までに経営数値の話など聞いたこともなかったと言います。

一般企業の社員からすれば、ある意味、幸せな人達だと思われても仕方ないほど、業績には無頓着です。

ひたすらその日を一生懸命働けば、給料はもらえて当たり前。現場から言わせれば、「頑張っていますから。」なのです。気持ちは、十分理解できます。
頑張っているのに、「給料が減る、賞与が減る」、ということはあり得ないのです。

この考え方を変えさせるために、研修会で、車のセールスマンの話をして分かりやすく解説しています。

A君とB君 あなたはどちらに高く給料を支払いますか?

A君は、毎日朝駆け夜駆けで、1カ月の残業は相当な時間数。しかし、ノルマを一度も達成したことがありません。」
B君は、毎日普通に出勤し残業もせず帰っています。但し、毎月ノルマ以上の営業成績を達成しています。」
あなたが経営者なら、どちらに給料や賞与を高く支払いますか?

普通に考えれば、営業成績が良いB君が高くて当然ですが、医療や介護の現場で働いている職員の評価基準は違います。長い時間ひたすら働いているA君が高いのです。
当初、この感覚に驚きました。企業人としては、あり得ない考え方です。

特に、ケアマネ従事者は要注意です。ケアプランの報酬は介護度に応じて定額制ですが、自分の時間コストと訪問に費やする時間を考えて仕事をしていますか?

必要利益、固定費以上に稼がなければ、自分の給料(原価=変動費)は何処からも降ってきません。
私の感想ですが、この簡単な仕組みが理解できない医療・介護従事者が多過ぎます。

一般企業に比べると、「医療や介護、福祉の仕事にお金の話を持ち出すな!」という方が多い業界です。
生産性に合わせて人件費を調整(変動費として)できれば話は別ですが、頑張っていると主張する職員には、調整などとんでもないことなのです。

「頑張る」意味を誤解しないよう、「労働生産性」をしっかり勉強していただき、納得いく給与の仕組みづくりを経営者と共に作り上げてください。

あんずパパ
あんずパパ
ボランティアは奉仕なので給料はありません。私たちは、仕事です。給料分を稼がなくてはなりません。