診療所と介護事業経営

2数力 環境を数字で判断する

「環境を数字で判断する能力」とは

《医療・介護業界の環境変化を数値化する能力》=シミュレーション能力

新型コロナウイルスの影響で環境変化が読めない

病院は、今後急性期で行くのか、亜急性期・回復期、または慢性期で行くのか、2025年超高齢化・少子化社会に向けて役割分担が明確となっていくことが、平成24年4月診療報酬改定により示されました。令和2年4月には、診療報酬・介護報酬同時改定となり、2025年の団塊世代の高齢化の先にある2040年多死社会についても触れられました。ところが令和4年4月の診療報酬改定では、誰も予期しなかった新型コロナウイルスの影響で感染症に対する医療機関の役割が重視される改定となりそうです。

介護事業や高齢者住宅は、どうでしょう。

介護事業は、同一建物内でのサービスは軒並み減算。訪問介護・看護は、サービス時間が細かくなり、今後増加の一方である介護サービス量に対応するための改定が行われました。地域包括支援サービスが新たに設けられましたが、需要と供給のバランスには地域差が大きく、現状は、即必要な地域と経営的に成り立つにはまだまだ時間を要する地域もあります。

私も経営している「サービス付き高齢者住宅」は、補助金の影響もあり近年急増してきましたが、消費税(5%→8%→10%)のアップ、建築資材や人件費の高騰による建設費のアップ等。それなりの入居費をいただかないと運営が成り立ちません。
平成26年7月にオープンしましたが、建設前には消費税が5%から8%に改定される時期で、サ高住建設の認可をいただいたのが改定の一ヶ月前でした。建築費が6億だとすると、消費税が1千8百万円違ってきます。
どうにか間に合わせなければと、相当な時間を作業に費やしました。また、建設予定地の近隣は九州新幹線の工事が続いており、建設関係で働く人の人件費は上がり続けていました。

また、私が暮らす地域には、どれくらいの支払い能力がある人が暮らしているのか?東京等の都会とは、住民の所得が明らかに違います。遊休資産(土地)の有効活用として、「周囲に勧められたから。儲かりそうだから。」そんな動機で経営が成り立つほど、甘い業界ではありません。

「収益性とやりたい事のバランス」

医療も介護も、やりたいからといって環境も考えずに身勝手なことをやっていては、倒産してしまいます。急性期医療をやりたくても、過疎化が進む田舎で可能か。高度先進医療機器を導入したいと思っても、採算が取れるほど患者を確保できるのか。どうしてもやりたい医療・介護があれば、やれる形、やれる方法でしかできません。

理想やボランティア精神も必要ですが、医療機関も介護事業も数字を無視できない民間企業です。収益性とやりたい事とのバランスを欠いては、経営の継続は不可能です。

「診療・介護報酬改定が示す方向性を読む」

特に、医療・介護保険制度、診療・介護報酬制度という国の政策(公定価格)により、経営形態や収入に大きな影響を受ける業界です。常に、制度という環境がどう変化したのか。将来、どういう方向に変化していくのか。経営者だけでなく、幹部自らが、環境変化を肌で感じ、適応するために対策を講じなければ絶滅しかねません。

飲食業であれ、製造業であれ、原油の高騰、電気料金の高騰、原材料の高騰等、環境変化に鈍感では、適応できず倒産してしまいます。ご存知の通り、新型コロナウイルスの影響で、飲食業は悲惨な状態です。誰も予測できなかった環境変化で、誰の責任でもありませんが、これから先どうなるのでしょう?不安は尽きません。

「シミュレーション能力を身に付ける」

医療・介護事業の幹部は、制度改定の意味をしっかりと捉え、将来に向け経営形態をどう変化させていかなければならないのか。その政策・戦略は。また、診療・介護報酬の改定が、どう自事業所の収入に影響をあたえるのか。最低、シミュレーション能力は身に付けてください。

病医院や介護事業所によっては、報酬の改定があっても「シミュレーションなど行ったこともありません。」と平気で言うところもあります。また、医療事務の職員にすら、その能力がない医療機関もあります。

幹部であれば、自社の商品価格の計算はできて当然。私はそう思いますが、現実はいかがなものでしょう。一般企業の幹部に笑われても仕方ないレベルなのか。

思い立ったが吉日。この機会に、「環境をシミュレーションする能力」をぜひマスターしていただきたい。看護師・介護福祉士・介護支援専門員等の専門職であっても、幹部になれば必要な能力です。いや、既に日々業務をこなしている皆さん、能力は既に備わっていることに気付いていないだけだと思います。
大切なのは、シミュレーションする習慣を身に付ける事です。令和4年4月の診療報酬改定で、自病医院がどう影響を受けるのか早速やってみましょう。

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