障がいと介護

ご夫婦は遠い親戚関係ですか?

4分の1の確率

専門医の話によると、この種の病気は4分の1の確率で次の子供にも発症する可能性があるという事でした。たまたま夫婦が、まったく同じ劣性遺伝子を持っている為に発症するという事です。ドラマでもあるまいし、運命のいたずらか、生まれたとことが違うのにご先祖様が一緒という事です。
初診の病院で子供の診察をしてもらう時、よく次の質問を受けました。「ご夫婦は、遠い親戚関係ですか?」。それだけ近親関係でなければ、福山型筋ジストロフィーは発症しないという事であり、言い換えれば、私たちの組み合わせでなければ、この病気は発症しない、障がいは出ないという事になります。
次も、同じ障がいを持った子供が生まれるかもしれない。遺伝は、自分と妻のどちらの家系からか?幸いと言っていいかもしれません。夫婦双方の遺伝子の問題であり、相手の家系を調べるほどの問題には発展しませんでした。
もし相手の家系を調べる事になれば、親戚を巻き込んだ辛いせめぎ合いに発展したかもしれません。そして間違いなく、離婚に行き着いていた事でしょう。今まで兄妹や自分たちが健康であったがゆえに、遺伝性の病気とは無関係であり、障がいを持っている人は「特別な人」に思えていました。

二人の組み合わせでなければ

「セツ、神様ておると思うや?おらすなら、健康な子どもば授けてくれたはず!俺が、なんばしたて言うとや。」「そしたら、私と結婚せんばよかったて言うとね。」こういう口喧嘩をすること自体、ショックでした。喧嘩をするたび、真剣にお互いの将来を考えました。離婚を……。
それからというもの、二人の間には暗く冷たい壁が存在するようになりました。
それもそうです。二人で描き二人で築くはずだったバラ色の夢が、この二人の組み合わせの為に崩壊してしまったのですから。すごく辛く悲しい事でした。

こんなはずじゃなかった!

段々話す機会も減り、私も仕事からまっすぐ帰る事がなくなりました。少しでも遅く帰ろうと、喫茶店で時間をつぶす日々が続きます。遅く帰ると妻から、「あなたは良かね、逃げるとこのあって。仕事仕事って、本当は家に帰りたくなかとでしょ!杏子のことなんて、何も知らんでしょ!杏子はててなし子だん。」と、図星がゆえに頭に血が上ります。「おれが仕事せんで、誰が生活ば支ゆっとか!」と、話しをすれば喧嘩です。
夫婦の心は、どんどん離れていきます。そんな家庭が嫌でいやでたまりません。そんな時、必ず頭に浮かぶ言葉が、「こんなはずじゃなかった!」・・・。
玄関を開けると、子供が「お父さんお帰り!」と抱き着いてくれる家庭は、もうありません。頭で理解できても、心や感情が収まらないのです。

悪かこつしたら バチ(罰)の当たるけんね!

我が子に障がいがあるがゆえに、ぶつかる様々な壁。最初の壁は、福祉制度や人間関係ではなく、自分自身の心の中にありました。「こんなはずじゃなかった!」という、自分が描いていた夢と現実のギャップを、どうしても受け入れる事ができません。
長女が誕生してから8ヵ月間、帰るのが楽しかった家庭がどんどん遠くなる。仕事が終わっても寄り道をする毎日。帰宅しても、妻と言葉を交わさない。仕事が上手くいかないと、子供の障がいのせいにする。
街に連れ出すと、周囲の我が子への異様な視線を感じる。遊園地に行くと、キャッチボールやサッカーをしている親子を無意識に見つめ、気付くと止めどなく涙が溢れている。「なんで自分がこんな目に?」
小さな頃から母に、「悪かこつしたら、バチの当たるけんね!地獄にいかなんばい。」と言われて育ちました。心のどこかに、この教えが根付いています。神様が、障がい児を授けてくださった。当初は、「くださった。」など絶対思えません。罰を「与えられた。」としか思えませんでした。
若い時に、気付かず罰があたるような事をしたのではないか?ひょっとして、あの時の事では?未成年の時に好奇心でやった飲酒やタバコ、些細ないたずらまで過去の記憶から心当たりを探します。
悪いことをした事が思い出せない。探し当らない。良い事でしょうが、覚えがないことが、こんなにも辛いことになるとは思いもよりません。いっその事、明確な過去の悪事があった方が、原因が分かり精神的にはよっぽど楽だったと心底から感じました。

空想の中で五体満足な我が子

外出すると、仲良く遊んでいる親子を見かけます。その度に、空想の中で五体満足な我が子と遊んでいる自分を想像してしまいます。娘と同じような年頃の女の子を見つけると、顔だけ入れ替えた姿を想像します。娘に、申し訳ないと思う様な心の余裕はありません。
いつか、突然と病気が治るかもしれない。画期的な治療法が見つかるかもしれないと、新聞に毎日目を凝らします。宇宙人が来て、治してくれるかもしれないと空を見上げます。毎日、様々な期待が詰まった空想が押し寄せます。
自分が、うつ状態なのか正常なのかも分かりません。
誰も自分の悩みや苦しみを理解してくれない。何かと言うと、「あなたがしっかりしないと。」と友人からの励ましの言葉。実際は、励ましどころか余計に辛くなりました。
これから、どうすればいいのか?子供に未来はない。この家族と生きていくこと自体が辛い。仕事からも家庭からも逃げたい!孤独感や将来への悲観ばかりが、頭に中をグルグル回ります。
精神的混乱の状態が、繰り返し繰り返し襲いかかります。神様はいないと思いつつも、「神様、どうかお助け下さい!」。

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